「将来、水の下になる土地だから」といわれた土地で農業を守りぬいた農家たちの努力と知恵、究極の鮮度を持つそばが、ここにある
駒そば亭のそば
「製粉後たったの4日で粉の劣化が始まるという調査結果があるくらい、ソバというものは繊細な食材なんです。だからこそ極限まで『鮮度』を追求した当店のおそばで、ソバ本来の風味や香りを一度味わっていただきたいですね」と話すのは、千歳市駒里地区で酪農を営みながら駒そば亭の店長も務める中村由美子さん。駒そば亭は、千歳市駒里農業協同組合が直営するそば店だ。提供しているソバは100%駒里地区産のものを使用している。
駒里地区の土地はもともと火山灰地で水はけがよく、ソバの栽培に適している上、支笏湖の伏流水が湧き出るナイベツ川湧水を水源とする水は環境省の名水百選にも選ばれたことがある。同地区のソバはその豊かな風土の中で、農家の人の手によって大切に育てられる。そんな駒里地区のソバは、甘みが強く香りも良いのが特徴だ。
さらに、注目すべきはその鮮度の良さ。そば粉になった状態のものを仕入れて使用する店が多い中、同店ではそばを「そば粉」ではなく「玄そば」(収穫されたままの皮のついた実)の状態で保管、その日使う分だけを店内の石臼で挽いて自家製粉している。ソバの鮮度を極限まで保つため、保管中の湿度・温度の管理も徹底している。
「いつかなくなる土地」と言われて
駒里地区は、昔から酪農や農業が盛んな地域として知られているが、千歳川流域の治水対策として、1982(昭和57)年に北海道開発局が策定した長沼町から苫小牧市まで延びる幅約400メートルの放水路計画では、作られる川がちょうどこの駒里地区を通ることになっていた。「将来、水の下になる土地だから」と、農業道路の整備や農地開墾などへの補助金がなくなり、多くの農家が自らの土地を担保に資金を借り入れ、農業を続けたという。
地元や自然保護団体の反対で計画自体は1999(平成11)年に中止となったが、農家の中には借金を返せなくなり自己破産した家もたくさんあった。土地から離れた若者も少なくないという。さらに年々、高齢の農家も多くなってきたことで管理しきれない農地の問題も浮上した。地域の農家が集まって共同でその農地を維持・利用する方向性を模索した。「当初は大きな牧場の建設など、他にも案が出ましたが、私たちはソバを作ろうと決めました」と中村さんは振り返る。狙いは六次産業化だった。単に原材料として(地域の)外に出荷するのではなく、自分たちの手で加工、販売まで手掛けることで生産品に付加価値を付け、地元の農業を元気にしたいと考えた。駒里地区の環境はソバの栽培に最適なものだったということと、機械を共同で購入し、店舗を作って提供する形を取れば、一度の投資で持続的に生産品に付加価値をつけて販売することが出来ると考え、2005(平成17)年にわずか7軒の農家がソバの栽培を開始。市の基金も活用して翌年には駒そば亭が誕生した。
手塩にかけて育てられた上質なソバと、生産者だから提供できる「収穫したままのソバのおいしさ」はたちまち人々を虜にし、人気店へと登りつめた。
「この風味のよさ、香り高さはよそでは味わえない」と、今では札幌など近隣の市町村、海外からも多くの客が訪れる。「それでも一番(多く来てくれるの)はやっぱり地元の人」だと中村さんは微笑む。「毎日でも食べたい味」と地元の人々に必要とされ続ける「駒そば亭」。それこそが「(この地域の)農業を、食の未来を守りたい」と挑戦し続けた人々が出した答えといえるだろう。
駒そば亭 | |
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住所 | 千歳市柏台南1丁目5-2 |
TEL | 0123-40-8816 |
営業時間 | 11:00∼20:00(ラストオーダー19:30) |
定休日 | なし |