ポーランド名作映画ビデオ鑑賞&交流会『水の中のナイフ』 | 地域新聞 ふりっぱーWEB

［作品について］亡命作家ポランスキー監督が祖国ポーランドに残した唯一の長篇。ワイダなど強烈な戦争体験からメッセージ性の強い作品を放ったポーランド派第一世代とは異なり、より内省的な作風が第二世代の特徴で、本作も登場人物はわずか三人、裕福な夫婦と貧しく屈折した若者の出来事を描く。舞台となる洋上の小さなヨットで過ごす二日間に起こる、それぞれの感情の揺れを鋭利な映像感覚で紡ぐ、見応えのある作品だ。
週末を過ごす壮年の夫アンジェイと若妻クリスティーナの夫婦が、ヒッチハイクの若者を車に乗せる。夫がいたずら心で若者をヨットに乗せたことから物語は動き出す。この夫婦は実は仮面夫婦なのだが、ヨットを操るときは統率が取れており、初めは反抗的だった若者と夫婦との距離感も次第に縮まっていく。
だが妻と若者の間に微妙な雰囲気が生じてくるにつれ、徐々に三角関係が生じる。翌朝、夫と若者が口論になり、夫は若者が大事にしていたナイフを海に投げ捨て、カナヅチだという激怒した若者を海へ突き落とし、その姿は見えなくなる。
夫婦は若者を殺してしまったのではと不安になり夫婦喧嘩になる。その結果、夫は怒ってひとり港へ泳ぎ去る。入れ替わりに、実は泳ぎができてブイに掴まって生きていた若者がヨットに泳ぎ着き、初めて若妻と二人きりになるスリリングな心理劇だ。
最初は男らしさを誇っていた夫が見てくれだけで、地味で気弱そうだった若妻が実は逞しくてセクシーだったという、どんでん返しも見事だ。
当時、音楽学校の学生だったヨランタ・ウメツカ演じる若妻が、一見地味だが官能的で魅力的だ。
『早春』（1970）のスコリモフスキが共同脚本、音楽にポーランドを代表するジャズ・ピアニスト/作曲家のクシシュトフ・コメダ、撮影はイェジー・リップマン（『地下水道』など）によるモノクロ映像の白いヨット、空と海の光と影が美しい。以上の強力なチームが生み出した傑作である。
1962年│ロマン・ポランスキー監督│ポーランド│モノクロ│94分│1962年ヴェネツィア国際映画祭 国際批評家連盟賞