徒然に 313
「うわぁ~むつかしい・・うわぁ~」そんなつぶやきに、
観終わったお客さま同士、少し緊張から解き放されてロビーは
なごやかに。
『私は確信する』は事件発生から裁判まで異例づくしの軌跡をたどった実話に基づいた法廷サスペンスです。
2000年2月27日の日曜日、フランス南西部トゥールーズに暮らす38歳の女性スザンヌが
幼い3人の子供を残し、忽然と姿を消した。
夫のジャック・ヴィギエに殺人容疑がかけられるのですが、
彼には明確な動機がなく、
決め手となる証拠も、ましてやスザンヌの遺体さえ見つからない。
そんな中でメディアが憶測による加熱報道をしはじめ、
2009年にはジャックの殺人罪を問う裁判が始まることに。
彼の無実を信じ家族を助けようとするシングルマザーのノラ。
彼女はこの裁判に、著名な敏腕弁護士デュポン=モレッテに弁護を依頼し、
自らも助手として250時間に及ぶ通話記録を調べることに・・・
10年前の通話記録、声だけが独り歩きするようにどんどん加速し、
意図的な声が巧みに操作されてゆく。
果たしてノラはその中で何を見つけたのか。
そして集中するあまりに・・・
犯人を処罰することはとても重要。「正義感」の強い人ほど犯人探しに躍起になる。
しかし、それ以上に重要なことは、無実の人が裁判で有罪とされ処罰される冤罪をなんとしても避けること、
それこそが本当の正義。
クライマックスの最終弁論の凄さはそこにあります。
「この映画は自分が憎んでいた人に自分がなってしまうという話です。
ある人の無実を信じていた、確証がないまま別の人を訴えてしまう。
弁護士の最後の弁論はジャックを誹謗していた人と同じくらいノラに向けられたものなのです」と監督。
証拠がないまま告訴された男と家族の悲劇、
そのような状況で子供たちが育っていった10年・・
最後に父ジャックは淡々ととこう語りました。
「尊厳を返してください、子どもたちのために」と。
視覚、聴覚を刺激する巧みなストーリテリングで歪んだ正義の
危うさをあぶり出した社会派サスペンス、
監督はアントワーヌ・ランボー。これが驚異の長編デビュー作です。
自ら当時の裁判を傍聴し、家族とも話をしながら信頼を得て、
脚本化していきました。
★そしてこちらも驚きの長編デビュー作です。
カンヌ国際映画祭批評家週間のクロージング作品に選ばれた、
グー・シャオガン「春江水暖 しゅんこうすいだん」。
6日(土)から上映が始まりました。
まるで山水絵巻のような映像の美しさと人々の営みが灯す小さなあかりに、こころがしめつけられるようです。
ともに完成度の高い若き才能、
嬉しさとともに、前向きな力をもらったような気持ちです。