徒然に 299
今日も、ニューヨークの人びとに、それぞれの朝が来た。
暗いうちにそっとベットを抜け出し、準備をして待っていた子どもたちと車を飛ばして憧れのマンハッタンへ。
主婦のクララは幼い長男のアンソニーと次男のジュードに
「旅に行こう」と連れ出したのです。...
うれしそうな子供たちの笑い声、でもクララの心の中は不安でいっぱいでした。
この旅は夫から逃げるための、決して家に戻ることのない旅だったからです。
所持金もクレジットカードもすべて夫の手の中にあり、クララにあるのはこの車だけ。
その車もレッカー車で持っていかれてしまって・・頼る人のいない都会でお腹をすかせた子どもたちになにか食べ物を、
とはいったのが老舗のロシア料理店でした。
ピアノの下に隠れて眠ってしまったクララたちに、そっとトレイに食事がおいてある。
目を覚ましたときは誰もいない。
そんなささやかな優しさをくれたのがここに集う人たちでした。
救急病棟で大忙しの仕事をしながら、心のケアに奔走するアリスや、
不器用すぎて次々と仕事をクビにされてしまうジェフ、
傾きかけている料理店の新しくマネージャーになったマークも苦労をしてきた人。
みんな問題を抱えているけれど、だからこそ、困っているひとがいたら手を差し伸べる。
そんな優しさが、クララ親子を通して、
それぞれの明日をちょっと元気にする。
「ニューヨーク 親切なロシア料理店」はそんなほっとした幸せを運んでくれます。
このロシア料理店のオーナーをビル・ナイが演じていて、製作総指揮も努めています。
オーナーなのに店番ボーイのように立っている姿はほほえましく、
ニューヨーク育ちなのにあえてロシア訛り、そのほうが客にウケる、ととぼけてみたり。
風々としたちょっと茶目っ気のあるチャーミングさで、
みんなのことを見守っている。
守護天使のようです。
監督はロネ・シェルフィグ。「幸せになるためのイタリア語講座」が大好きでしたが、
この映画もオリジナル脚本・監督作品です。
「この作品は、私がずっと描きたいと思っていた物語を組み合わせたもので、
あるとき、すべてを同じ映画内にまとめることができると思ったの。
主人公のクララの物語のスパイスで、彼女の逃避行や心の克服が描かれ、とても素敵な場所で結末を迎える。
そして他のキャラクターたちも少しずつ接近して、たくさんの困難を乗り越えて、うまく着地するの。
どのキャラクターも独断的な人たちではなく、とても穏やかな人たち。
でも映画には政治的なニュアンスも含んでいる。
それを表には出さないけれど、それがなんとかにじみ出るように狙ったの。
これは大きな問題を含んでいる映画だけれども、普通の人々がどうやって生きてゆくかについても描いていて、
実は見知らぬ人から多くのことを学べるということを教えてくれる。
他人同士がどんどん近づいていって、それぞれにとってかけがえのない人になっていくような。」
映画の冒頭で、いきなりビルの窓から放り出された椅子が、
巡り巡ってやがてたどり着いた先は・・?
嬉しい顛末です。