徒然に 292
11月から始まりロングラン上映となった「アイヌモシリ」はとうとう12月24日(木)が最終日と決まりました。本当にたくさんの皆さんにご覧いただいて、
あるお母さんは「この子と一緒に見ることができて良かった」と。
小学生の少年はロビーで販売しているアイヌ文様の手ぬぐいが気に入ったらしく
3色あってどれにしようか迷っている。...
「一緒に見るには日曜日しかないので、二人で都合をつけて。今日見れてよかったね」と二人で顔を見合わせていました。
ちいさな映画館ではこんな光景に出会えて、おしゃべりに交えてもらったり、
これは特権かなと、嬉しくなります。
11月2日先行特別上映では福永監督、出演の秋辺デボさん、結城幸司さんのゲストトークがありました。
北海道の阿寒・アイヌコタンを舞台に、ここに暮らす少年の成長の物語です。
1年前に突然父を亡くし、今までの生活に違和感をもちはじめ、アイデンティティが揺らぎ始め・・少年の強いまなざしは深い森の中をさまよい、夜闇からようやく朝を迎えたとき・・
少年の旅は私たちの旅でもありました。
今までとはちがうはじまりを迎えたようなすがすがしい気持ちになりました。
企画から5年、北海道で生まれ育った福永監督が阿寒を訪れ、何度も何度も追い返されながら取材を重ねて、ようやく信頼を築いていく中で、アイヌの人たちの協力のもと、出演者のほとんどがアイヌで占められた
「自分たちの映画だ」と言ってもらえる映画が誕生しました。
ここからは福永監督の映画への思いを語っていただいたときのことを。
「20歳でアメリカに渡った僕が、ネイティヴアメリカンについて興味を持ちだしたとき、自分が生まれ育った北海道の先住民であるアイヌについて何も知らないことにハッとし、恥ずかしく思いました。
いつかアイヌの映画を作りたいと思い始めたのは、大学を卒業してまもなくのこと。
アイヌについて知ることは自分が生まれ育った北海道、さらには日本を知ることでもあり、自分のルーツを見つめなおすことにも繋がると―
アイヌを題材にして作品を作ることはとても繊細なことだと理解していたし、不安もありました。
それでも、今まで作られたアイヌについての劇映画の数は少なく、アイヌ役がいつも和人に演じられてきた中で、
アイヌ自身が主役を演じる映画をつくることにはきっと意味があるはずだと。
その姿勢を貫いて作品を完成させることができたことは本当にうれしく、苦労があった分感慨深いものがあります」
「和人の自分がアイヌについての映画を作るにあたって、
どのような姿勢で作るかは映画そのものと同じくらい大事なことで、物語を組み立てるために、
出演者の皆さんの人柄がそのまま感じられるように、
できるだけ現実に寄り添う形で脚本を書き、固定観念にとらわれたアイヌの描き方ではなく〝現代を生きる人々“の話にするということを心掛けた」
そして、「この映画を通してアイヌの人々や彼らに関する問題を身近に感じる人が増えることがあれば本当にうれしく、
自分は今まで、一人の人間として人間を描くという姿勢で映画制作に向かってきました。
人がきちんと描けていればEmpathy Machine(感情移入を促す装置)としての映画の役割が果たされ、
観る人の人種や背景にかかわらず、心を動かすことができると信じています。
この映画が少しでも多くの人に届くことを切に願っています。」と監督。ご覧いただいたみなさんからは大きな拍手をいただきました。
(つづきはデボさんやカントくんのお話も)
写真は福永監督と秋辺デボさん、結城幸司さん。