徒然に 276
こんな事が起きていたなんてまったく知らなかった・・私たちはそんな衝撃の真実に主人公のガレス・ジョーンズとともに目撃します。
「学校の授業でヨーロッパ史や第二次世界大戦を学んでいるとき、『ホロコースト』については多くの時間が割かれました。でも『ホドロモール』(1932~1933年ウクライナで起こった人工的飢饉)については、国によって解釈がちがうため、それを歴史的事実として認めさせるための闘いが今なお続いています。
だからウクライナで会った人々はみな、映画を通してそれを伝えようとしている私たちに感謝してくれました。」
そして、ガレス・ジョーンズについて名前さえ聞いたことがなかったとも。...
「だからこそ、この映画は自分にとって、そしてきっと多くの人にとって重要だと思いました。彼については殆ど語られてこなかったのです。彼が伝えようとしたことは、ソビエト政府の策略や、それに協力したジャーナリスト達によって「虚偽(フェイク)」とされてしまったからでしょう」と、ジョーンズを演じたジェームズ・ノートン。
物語を蘇らせたのは、この映画で脚本家デビュー、映画の製作者となったアンドレア・チャルーパでした。
彼のおじいさんは東ウクライナで生まれ、幼いころに起こったロシア革命を目撃し、ホドロモールを生き延びました。そして飢饉の生存者として、おじいさんは83歳で亡くなる直前に当時のことを自伝として書き残していました。
大学生のときにチャルーパはこのおじいさんのことを物語として描くことを思い立ち、
卒業とともに単身ウクライナへ、
「ウクライナへ来て勉強しながら脚本を書きはじめました。
そのころ新たに知ったのがガレス・ジョーンズのことでした。
ガレスの遺族が彼の日記や手紙を発見した時期で、遺族はスーツケースに埋もれていた遺品からガレスの人生を辿ろうとしていたのです。
それは当時の私と祖父の関係に似ていました。そして私は経緯を含めて事実を明らかにすべく、ガレスと自分の祖父をリンクさせたのです。」
こうして物語を構想し始めたときから15年を経てようやく映画が完成しました。
「この映画が現在の問題に直結するとは想像もしていませんでした。
私は埋もれた歴史を掘り起こしたかっただけで、それが現在の写し鏡になるとは思ってもみませんでした。しかし製作をすすめるに従い、世界中で独裁政治が広がりを見せるという非現実的な現実に直面したとき、
この物語が真実のために闘おうとする多くの才能豊かで勇敢なひとたちを団結させたのだと気づき、大きな勇気をもらいました。」と語っています。
真実を求め大きな権力と真正面から闘った記者のガレス・ジョーンズが
作家ジョージ・オーウェルの「動物農場」へと結びついてゆく過程は感動的です。
「ガレス・ジョーンズとオーウェルは同世代で同じ問題に関心を持ち、同時期にロンドンに住んでいた。なおかつ同じ著作権代理人を持ち、同じ分野で交流していたのです。」
と語るのは監督のアグニェシュカ・ホランド。
「主人公の勇気と誠実さ、そしてジャーナリズムの義務を、
いま、なぜこのストーリーが重要なのか、理解してほしいと思いました」と。
★「赤い闇 スターリンの冷たい大地で」上映中
ガレス・ジョーンズはその後30歳の誕生日の前日、
1935年8月12日 何者かに殺害されたことが最後に記されます。
※ホドロモール
推定300万人以上のウクライナ農民が餓死したと言われるホドロモールは
ソビエト政府が進めた農業の集団化政策や裕福な農民を追放したために起こった生産の激減、外貨獲得のための穀物強制徴収等によって引き起こされた”人工的な大飢饉“だったのです。