徒然に 274
「ようやく見ることができました、これが見納めでしょうか・・・」とおっしゃった。
見納めではないでしょうけれど、そんな気持ち、わかります。
もうこれ以上の感情には出会わないかもしれない、そんな想いに似ているかもしれません。
「海の上のピアニスト」イタリア完全版、 この作品はイタリアのみで公開されたもので、...
日本でも今回はじめての上映です。それだけに伝説のようになっていました。
「ようやく会えた」、その気持ちが大きいです。
ナインティーン・ハンドレット、今にして思えばモリコーネの分身のように思えてなりません。
・・・
「エンニオは静寂が好きでした。音楽は静寂の休止符だ、と。
静寂のなかに音楽の鍵となるヒントがあったのです。
とても魅力的な理論ですし、
彼のつくった楽曲には、この理論と符合する点がたくさんあります。
終止符、休止符、音の隔たり、静寂は彼にとってすべてに通じる鍵でした。
そして数日前から彼が始めた静寂は・・・我々にとって、聴きがたいものかもしれません。
なぜなら、この静寂は・・・・あまりにも長いからです。
しかし、これは彼が仕掛けた数え切れない音楽的実験の一つと言えるかもしれません。
長い静寂が我々全員を、彼と交わす創作活動へと仕向けるのです。
音楽を聴き、学び、思い出し、また彼のことを思い出し、
学びながら、可能な限り長く休止を保つ実験なのではないでしょうか。」
ジュゼッペ・トルナトーレ監督のスピーチです。
7月17日、ローマ市内にあるパルコ・デッラ・ムージカ音楽堂、毎年開催されるローマ国際映画祭の大型コンサートホールにエンニオ・モリコーネの名前をつけることが発表されたときでした。
親子ほど年の離れたふたりの出会いは世界中を魅了した「ニュー・シネマ・パラダイス」からでした。
脚本の段階でラストシーンに感動したモリコーネは、撮影前にも関わらず作曲した曲をトルナトーレにわたし、現場ではその曲を流しながら撮影したそうです。
映画でのふたりの二人三脚ぶりは10年後の「海の上のピアニスト」で見事に花開く。
モリコーネは最も難しい作品の一つだと―
「この世に存在しない人間の奏でる、今までに聴いたことのない音楽」、
主人公のナインティーン・ハンドレッドが奏でるのはそんな音楽だと。
エンニオ・モリコーネは、2020年7月6日、91歳でこの世を去りました。
★「海の上のピアニスト」イタリア完全版 10月9日までの上映です。