徒然に 259
「花が咲くと何にも忘れるがね、かわいいよぉ。
花って香りがそれぞれちがうし、色も違うし、みんな
器量いっぱいに咲いてくれるから、かわいいよぉー」
見渡す限りの畑には草木が植えられ、すくすくと育って...
いろとりどり。目をほそねながらまん丸の顔に笑みがいっぱい。
腰をかかめながら急な斜面の段々畑の道を歩いてゆく。
ここは埼玉県の秩父の山深い小さな村。平成に入った頃から夫の公一さんとともに
丹精込めた段々畑をひとつまたひとつ、と閉じてそこに花を植えてきました。
その数は1万本以上。
「長い間お世話になった畑が荒れ果ててゆくのは申しわけない。
せめて花を咲かせて山に還したい・・」とムツおばあさん。
人生には終わりがあることを、人の命を花にかえて、故郷に咲かせたい。
この山に誰もいなくなっても丈夫な花を育てておこう。
そうしたら
「いつか人が山に戻ってきたとき、花が咲いていたらどんなにうれしかろう。」と。
監督でカメラマンの百崎さんは18年にも渡って、ご夫婦のもとへとでかけてきて取材してきました。
きっと「ムツさん、どうしているかな、元気でいるかな」そんな優しい親しみが奥深い山の村へと監督を向かわせたのでしょう。
福寿草に始まり、レンギョウ、ハナモモ、ヤマツツジ。
雨のあとのアジサイ、秋には苗木から育ててきたモミジの彩りが・・
自然の中で生き、自然の中に還ってゆく、なんと豊かで深い生き方だろうと思いました。
・・・・・
百崎監督よりお便りをいただきました。
「花を愛で、美しいと思うだけではなくて、お茶っこ飲んで、
縁側でなんだかんだとおしゃべりをする。その豊かさを教えてくれたのがムツさんでした、
大きな紅葉の下に、大きな石のテーブルとイスを用意したのは、ちょっとひととき、
豊かな時間を過ごしてほしい、そんな思いからでした。
期せずして、こんな時代にムツばあさんの物語を映画として送り出すことになりました。
社会全体に大きな変容が求められ、生き方や暮らし方を見直す、誰と、どこで、どうやって生きていくのか、悩む人も多いように思います。(私も含めてですね・笑)そんなときこそ、出会ってほしい映画になっていると思います。」
(全文はキノロビーでご紹介しています)
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