徒然に 256
新しいムービーランナップの入稿をようやく終えました。
気分も一新、結婚式で言えばお色直しでしょうか、
7月中旬には出来上がってきますので楽しみにしてくださいね。
さてキノではイタリア映画2作品が上映中です。「両方見なくちゃ」と気合満々、おっしゃっていただけると嬉しいものです。
「私は君に特別な物語を提供できる。通常では知り得ない物語だ」
人気脚本家のゴーストライターをしているヴァレリアのもとに男からの怪しげな申し出・・。
それは未だ未解決のイタリア美術史上最大の闇と言われるものだった。
事件が起こったのは、1969年10月17日から18日にかけての夜。
カラヴァッジョの名画「キリストの降誕」がサン・ロレンツォ礼拝堂から姿を消した。
今も未解決の実在の事件に、イタリアンマフィアが関わっていたと大胆に推理し、
華やかな映画業界の裏側を暴く意欲作となった「盗まれたカラヴァッジョ」。
監督は「修道士は沈黙する」のロベルト・アンド―。
いつもながらのハラハラするようなサスペンスとともに人間の心の奥底を射抜くようなヒューマンドラマ
終盤に向けて加速度はアップし、
脇にいたはずの母の位置がかわり、
映画の中の映画監督をイエジー・スコリモフスキが登場したり、
「神さまの思し召し」「ナポリの隣人」の役者さんたちベテランがそろい、ハラハラしながらワクワクしてきて、まさに映画の醍醐味です。
そしてもう1作品、名作中の名作です「ひまわり」。
日本中が魅了された恋愛映画の金字塔、戦争で引き裂かれた男と女の悲しい愛の物語です。
見渡す限り一面に広がるひまわり畑、甘く切ないヘンリー・マンシーニの音楽、
ソフィア・ローレンとマルチェロ・マストロヤンニ、
監督は「靴みがき」「自転車泥棒」のヴィットリオ・デ・シーカ、
錚々たる顔ぶれが揃いました。
撮影当時、東西冷戦のさなか。そんなかで広大なひまわり畑はウクライナの首都キエフから500キロほどのヘルソン州で撮影されたのだそうです。
この撮影自体、かなり特別なことだったでしょう。
ひまわり畑は美しいだけではなく、大地に眠る様々な人々の悲しみや涙でもあることが伝わってきます。
二人はロシアの駅のホームで瞬時の再会をし、女は現実を知り、
とっさに列車に飛び乗って別れてゆくのですが、
デ・シーカ監督にとってはこのシーンがラストシーンでした。
しかし、プロデューサーの強い意向で後日譚が追加されました。
その後二人はイタリアで再会します。
過去の二人に戻ってもう一度歩きだしたいと願う男に、
しかし女はこう言い放つ。
「もう昔とは違う、愛がなくてもいきていけるのよ―」
二人は戦争を挟んでそんな年令になったのだ。
駅で愛する男を見送る女の表情・・・
この情感と余韻が「ひまわり」に永遠を刻みました。
70年代、この物語は女が身を引き、悲しみを背負ってゆくような印象を与えたかもしれません。
でも50年後の今見ると、この物語は女は過去に戻るのではなく、未来を生きようとした、そんな強さを感じました。
こうして時代によって見え方や感じ方が少しずつ変わってゆくのも映画の愉しみのように思います。
8月には90年代一斉を風靡した「海の上のピアニスト」が待機中。デジタル修復版に続き、9月には日本初のイタリア完全版も。素晴らしい出来栄えです。